Untitled Trueman's Digital Archive

~Gallery of Hindsight 2020~

堀田善衛を読む。

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太初にロゴスありき@板橋区

「しかしその代償は高くついた。カルロスはスペインの銀鉱山、水銀鉱山の採掘権だけではなく、貨幣鋳造権までをフッガー家に手渡してしまったのである。すなわち、スペインは国外に向けての植民地世界帝国を形成すると同時に、その本国を外国の利権によって蝕ませ、被植民地化を開始していたのである。」

「折しも新大陸からの金銀財宝が流れ込みはじめていたのであったが、あわれなのはスペイン国民であった。金銀財宝の大部分は、彼らの頭越しに低地諸国とドイツに流出して行ってしまった。

「国内には不満と怨嗟の声が満ち、叛乱さえが各地で起こった。

「カルロスは、ここでもあのフィリップと同じく、彼の統治する人民を蔑視していたものであったろう。議会の怒りの声にも耳を傾けず、1520年の5月21日、彼は3年後に帰ると言い残してスペインを去った。」

堀田善衛「バルセローナにて」集英社文庫所載「グラナダにて」155〜156頁 下線は引用に際して付した。)

なぜ長々とこのような部分を引用したかというと、15世紀から16世紀にかけて、スペイン王国を世界覇者にしたアラゴン王フェルナンドとカスティーリア女王イサベルの統治の後の同じ国家が「自らが統治する人民を蔑視していた」後継統治者の、選挙において「神聖ローマ帝国の帝王に推挙されたい」という「我欲」・・・神聖ローマ帝国の皇帝の地位は、7人の選帝侯たちの選挙によるものであったのであり、その票を買収するため多くの金銀が必要であったという次第である・・・の対象以上のものでもなくそれ以下のものでもない単なる収奪の対象としての土地として取り扱われることによって、かつて7つの海を覇した国家の栄光も尊厳も富も、瞬く間に失われてしまったというこの経緯に、なにがしかふと自らの首筋が冷たくなる思いを感じたのは気のせいであったかもしれない。

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でも21世紀の日本において、16世紀のスペイン人民の心情に想いを馳せることができるようになるとは、全く想定の外であった。時間は過去から未来へと一方的に流れていくものと思い込んでいたが、過去から未来へ、のみならず、現在から過去へと時間が逆流することもある、そんな国も、もしかしたらこの地球の上には、どこかにあるのかもしれない。

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時間が渦巻き、逆流する国。そこでは生きながらにしてこの世を去った者に再会することができるのだ。そして過去の亡霊どもが生者たちを支配するということも、あり得ないことではないのかもしれません。

知らんけど。笑